春日神社の例祭の中で最も重要とされる祭が、毎年二月一日から二日にかけて執り行われる「旧例祭」です。元々は旧暦の正月に行なわれていた迎春のお祭りでした。王祇祭の由来は諸説ありますが、 「王祗」とはその土地の神を意味し、紙垂を巻いた三本の白木の柱を紐で連ねた御神霊の依代を「王祇様」と呼ばれていた事から、そう称するようになったと云われています。
このお祭りには、上座と下座のそれぞれに当屋と呼ばれる神宿があります。当屋は上座と下座の氏子の中で、生年月日順に巡ってくるもので、黒川の男性にとっては一生一度の当屋頭人を務めることは最高の名誉であり、一年間、神を迎える大役を担います。
また、 このお祭りは別名「豆腐祭り」とも言われています。 一月中旬頃、上座・下座の当屋では、親戚や内場と呼ばれる地域の人々が集まり串に刺した数千本の豆腐を焼き上げ、それを冷やして凍み豆腐にします。 この豆腐は神への捧げものであると同時に、祭りの当日、座中の人々や当屋へ奉納に訪れた客に振舞われます。
二月一日の早朝、春日神社から王祗様を両座の当屋に迎え、神事と饗応が行われる。夕刻より神事能が始まり、稚児が務める「大地踏と式三番(上座は所仏則の翁と呼ばれ、黒川能特有の翁。下座は通常の公儀翁と呼ぶ)の後、五番立の能と狂言が夜を徹して行われる。翌朝、王祇様は神社に還り、両座が脇能を一番ずつ演じ、両座立会の「大地踏」「式三番」 (所仏則)が行われる。その後も尋常事の神事は続き、すべて終わるのは二日の夕刻に及ぶお祭りです。このように、四季の生活に祭りと能楽が溶け込んでおり、大地に根差した庶民的エネルギーを保ち続けているところに特色があるといえます。